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「パラレルコンプレッション」の大きな勘違い

2016年 11月 25日 00:15 | カテゴリー: Mix
2016年 11月 25日 00:15
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とあるYou tube動画を見ていて「えっ?」と思って、自分の思い違いかと調べまくりました。意外と間違った方法がまかり通っているんですね。いや、最終的な効果はほぼ同じかもしれませんが、やはり本物は応用力が違います。昨今では普通に行われているミックステクニックですのでちゃんと理解しておこうと思ったわけです。

 

そもそも「パラレルコンプレッション」とは?

本来は「1本のソースから信号をパラって(分岐して)、パラったほうのチャンネルにコンプ処理して両方(または複数の)トラックをミックスして、迫力を出す」というものです。これによって、音圧があがり、ダイナミクスを保った、より自然なソースに仕上げることができます。

元々はノイズリダクションのドルビーによる信号処理を説明するために用いられた造語だそうで、ニューヨークのスタジオエンジニアがその技術論文で勉強して広まったことから「ニューヨークコンプレッション」とも呼ばれるそうです。

言ってみれば、昔からある方法でアナログ時代からあるので、当時を考えるとあくまでも「ソースを分岐する」ことが常套で、そこには「タイムラグのない再生」と「早い処理能力」が問われていることになります。

で、間違った方法というのは、「オーディオトラックをコピー(デュプリケート=複製)して、その片方にコンプかけてバランスをとる」というものです。これだとどこにも「パラレル」が存在しないですね。

まあ、効果的には間違いではないのでしょうが、これデメリットが多く応用がきかないので、ちゃんと説明しましょう。

 

DAWの進化が間違った解釈を生んだのかも?

古くからあるこのテクニックも時代とともにやり方が変わってきて、アナログからデジタルへ進化します。さらに、デジタルの中でもテープからHDDへと進化し、コンピュータ内で完結するDAWへと進化します。

このデジタルの黎明期にはいくつかの変遷がありますが、まだまだハードが生きています。それはCPUの処理能力の問題です。多分民生用出てきたSound Tools(現在のPro Toolsの前身)は録音と再生の4trが限界でエフェクトなんてつきません。高度なエディットも録音した音源を別なソフトに切り替えて使用する有様です。ここからすると、今のDAWのなんと進化したことか!

話を端折って、ようやくプロの現場でも使えるようになってくると、今までのテクニックがいとも簡単に再現できるようになります。さらに人手がなくともできる技も蘇ります。一番大きな変化は、記憶ができて再現が可能になったことです。これにより、大幅な時間の短縮ができ、かかるコストもかなり削減されたわけです

何かを表現するためのエンジニアならではのテクニックも、今までなら数十分から数時間かかっていた作業が、今やコマンド1発で瞬時に出来てしまいます。そして記憶ができるということが、カット&ペースト、アンドゥ、リドゥ、コピー、リピートなどを可能にし、履歴によるやり直しまでもが普通に可能になったのです。

多分この便利さが、手法を様々に変化させたのではないでしょうか?単純に「そのトラックパラって」なんて言われたら、言葉通り信号を分岐するよりコピートラック作れば、結果はほぼ同じです。まあこの「ほぼ」というのがミソで、実際はやっぱり違うのです。

 

じゃあ何が違うの?

具体的にいきましょう。たとえば、ドラムトラックは普通スネアやバスドラ、ハットといった各インストごとにトラックを作って、グルーピングしてバスにまとめます。でドラム全体に音圧が欲しいので、ここにパラレルコンプレッションをかけるとします。

バスからオーディオを書き出して、コイツを複製してコピートラックを作ります。元のトラックは何もせずにコピートラックにコンプをかけます。そしてパンは一緒で、フェーダーでバランスをとります。この「コピートラックを作る」という部分からが、YouTubeで見た動画です。

さて、ここで問題です。

  1. コピーしてできたトラックのリージョン(音素片)がズレたらどうなるの?
  2. このドラムにバランスやパターンの修正が入ったらどうするの?
  3. もし万が一、全トラックに同じ処理をする場合、仮に元が50トラックあったら倍の100トラック必要になりますが処理がついてきますか?
  4. どこが「パラレル」なの?

1.はどのくらいズレるのかというのもありますが、フランジングや位相ズレの問題にもなり、思った効果が得られません。
2.はオーディオトラックである限り、もう一度書き出し直しになります。
3.はCPUの限界越えれば、フリーズします。
4.はどこなんでしょう?

 

これが本来のパラレルコンプレッションであれば、元のトラックからセンド(プリが基本)してAuxバスへ出力(つまりここで信号がパラレルになります)して、そのバスでコンプ処理してフェーダーで元トラックとのバランスをとります。

この場合ですと、1.のようなズレは皆無(バス自体をディレイさせない限り)ですし、まあ2.はその通りですが、Logicのような高性能DAWでソフト音源からパラアウト受けが直接できるならオーディオへの書き出しは必要ないので、各インストの個別修正はいつでも可能です。3.もLogicならば、マルチコアCPUに対応しており、auxバスやエフェクトの処理をうまく分散するので負荷は弱まりますし、リージョンがパラレルトラックにあるわけないので、HDDなどのハード的負荷も減ります。もちろんマシンスペックにもよりますが、同じマシンでコピートラックを作った場合とパラった場合は後者の方が負荷は少ないのです。そして4.はもう説明済みですね。

そして忘れてはならないのが、コンプの動作は「大きいレベルは落とし、小さいレベルは持ち上げて、全体のレベルを圧縮する」ということで、特にボーカルなどでささやくようなレベルから叫ぶくらいまでのダイナミクスがある場合などは、このパラレルトラックを2本以上作りコンプレベル(レシオやメイクアップゲインなど)を変えた複数のパラレルトラックを使用してバランスをとることもあります。これは小さいレベルと大きいレベルの部分を個別に処理して、より自然なトラックメイクを行うテクニックです。元とパラレルが3本以上になることもあります。

↓これが本当のパラレルコンプレッションです。

余談ですが、、、

前項を書いてて気がついたのですが、もしかするとコピートラックを作るのって「Wall of Sound」と勘違いしてるんじゃないかな?と思いました。

Wall of SoundとはBeatlesのLet it beのオーケストラアレンジで有名になったフィルスペクター氏が得意としたレコーディング手法で、文字通り音の壁を作るものです。まだレコーダーのトラック数が足りない時に大人数のオーケストラを何度も別トラックに録音して、すき間を埋めるようにして音の壁を作って曲に厚みを出すものです。

これをDAW上でやるためにはコピートラックを複数作って、気持ち再生タイミングをずらしてパンをバラバラに振ってすき間を埋めていきます。こうしてできた曲には厚みがあり、重厚に仕上がります。再生タイミングをズラすというのが複数人で演奏しているように感じるので、壁になります。もちろん各トラックに音質のエディットは加えるのでコンプも然りです。あとはパンとタイミングだけで、音圧アップの手法としては似ているので、そう取られたのかも知れません。

ただ、語源を知らないでこんなことやると、それこそ知ったかぶりになってトラブルに対処できなくなります。プロがすごいのはどんな時代でもその時に応じたトラブルの回避法は持っているので、機材に振り回されることがない、いわゆる「理解して使いこなしている」ということです。

 

本当の「パラレルコンプレッション」とは、原理説明もできるし、物理的にも言葉通りです。プロセスが全然違う上に、コンピュータに対しての安定度が断然違います。効果の高い技なので、正確に覚えて欲しいです。